「あんじゅう」は、宮部みゆき先生のライフワークであるシリーズの、二冊目です。辛い事件から心に深い傷を負った少女・おちかが、叔父の計らいで様々な人の、不可思議な経験を聞き集めるうちに、少しずつ前を向き始めます。

この巻には四つの物語が収録されていますが、私が特に好きなのは表題作。
ある若侍が打ち明けた、不思議な「紫陽花屋敷」にまつわるお話です。
おちかの身近な人物も関わるその屋敷は、以前から住む人もおらず荒れ果て、不気味な声や気配がすると、恐れられていました。かつて屋敷に住み暮らしていた加登夫妻は、やはり不思議な気配を感じていました。
ある日ひょんなことから、真っ黒で柔らかい、妙な生き物と遭遇します。
最初はビックリしたものの、肝の座った夫と朗らかな妻は、すぐこの不思議な生き物と馴染み「くろすけ」と名付けます。
言葉は話せないけれど人が好きで、手鞠歌を聴いたり、綺麗なお菓子を見るのが好きな、可愛いくろすけ。
お日様が苦手で暗闇を好む彼と夫婦は、ずっと一緒に、仲良く暮らしていくかに思えました。
ですが、くろすけの正体が判明した時、それがどうしても出来ないことを思い知らされます。
お互い大好きなのに、一緒にいたいのに、それは叶わない……人とあやかしの間には越えられない、残酷な障害がありました。
異なるモノ同士の、暖かく切ない交流は、しかし確かに、何かを残したのです。他のお話と合わせて、ぜひ読んでみて下さい。